あたらしい湯治の展開
川湯温泉街では近年、地元のホテルや旅館の経営者が中心となって「あたらしい湯治」事業を繰り広げている。その火付け役の一人に、川湯の森病院院長の齋藤浩記さんがいる。弟子屈町の基幹産業である観光と農業を元気にしながら、地域医療の充実も図っていこうと模索している。「あたらしい湯治」は何が新しいのか、どのような将来像を描いているのかを聞いた。
観光産業と医療を融合
財政基盤を構築
まず、地域医療をめぐる今日的課題について教えて下さい。
病気はないのが一番いい反面、患者がいなければ病院経営は成り立ちません。この矛盾を解消するためには、保険診療に依存しない財政基盤を構築しなければならない。そのため、保険収入以外の収入を、地域の産業を活気づけていく中で見いだしていくことが必要となります。最善の方法を突き詰めていくと、弟子屈町における観光と医療を結びつけた「あたらしい湯治」のアイデアが浮上してきました。
「あたらしい湯治」とは?
従来の湯治に見られた身体的側面の回復効果をのぞむだけではなく、精神的な側面も豊かにします。さらに、旅行者と地元の人が交流することで、互いに刺激し合い、みんなが幸せになる姿を目指します。住んでいる人が健康なまちに、お客様は訪れ、滞在して、元気になる。このモデルを、弟子屈町の人たちと一緒につくっていくため、医療機関としての役割を果たしていきます。
最高の条件そろう
弟子屈町にその可能性がある理由は何ですか。
観光と医療を結びつける取り組みのキーワードは、自給自足と地産地消、共存共栄だと考えています。弟子屈町に当てはめてみると、温泉と国立公園、食べ物の全てが素晴らしく、なおかつエネルギーや食材を地元でまかなうことができます。さらに、多彩な人材の集まりは広がりを見せており、特技を持ち寄って、弟子屈町ならではの魅力を発信できる。弟子屈町は地域の産業と医療とが結びついた「医療福祉産業複合体」になれると確信しています。
若い人材の育成
最後にこれからの展望をお伺いします。
2011年4月、わたし自身が川湯温泉に移り住んだことで、地元のさまざまな事業者とつながりを持つようになり、自分が思い描く「医療福祉産業複合体」の実現が現実味を増してきました。今後、「あたらしい湯治」の考え方に賛同する医師や看護師、栄養士、保健師が、全国各地から弟子屈町に移住してくる時代がやってきます。そのためにも、盤石な体制づくりを進めていかなければならない。将来的には、生え抜きの若い人材を育てていきたいです。